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2018.01.15

取締役による利益相反取引の制限(第3回)

 第3回では、取締役が利益相反取引を行おうとしている、又は行った場合に、他の取締役や株主が行使できる主要な手段について、ご紹介します。
 会社の機関設計には様々なパターンが存在しますが、以下では、取締役会と監査役が設置されている会社を念頭に、会社Aの取締役Xによる利益相反取引が問題となっており、他の取締役をY、株主をZとしてご説明します。

1 他の取締役が行使できる主要な手段
 前回ご紹介したとおり、取締役Xが、利益相反取引を行う場合には、その取引に関する重要な事実を開示した上で、取締役会決議による承認が必要となります(会社法365条1項、356条1項2号3号)。
 そのため、取締役Yとしては、取締役Xから開示を受ける「その取引に関する重要な事実」、すなわち、取引の主要な内容や、利益相反の状況等をもとに、その利益相反取引が、会社Aに損害を与えるおそれがあるかどうかを検討する必要があります。
 そして、重要な事実が開示された結果、その利益相反取引は、会社Aに損害を与えるおそれがあると判断した場合には、取締役Yとしては、その利益相反取引の承認に賛成する決議が成立しないよう、他の取締役を説得する必要があります。
 また、その利益相反取引の承認に賛成する決議の成立は防ぐことができない状況であっても、取締役Yとしては、少なくとも、決議には反対し、反対した旨を取締役会議事録に残しておく必要があります。これは、異議があったことが取締役会議事録に記載されていなければ、取締役会決議に賛成したものと推定される(会社法369条5項)ところ、前回ご紹介したとおり、利益相反取引によって会社Aに損害が発生した場合には、取締役会決議において、その利益相反取引を承認する決議に賛成した取締役は、任務を怠ったものと推定され、会社に対して損害賠償責任を負う可能性が高くなってしまうためです。(会社法423条3項3号)。
 
 仮に、取締役Xが、取締役会決議による承認を得ることなく、利益相反取引を行おうとしていることが判明した場合には、取締役Yとしては、取締役会を招集し(会社法366条、定款等によって取締役会の招集権者が定められている場合には、まずは、その取締役に対して取締役会の招集を請求することが必要となります)、取締役Xらから、その利益相反取引に関する事実関係を確認することが考えられます。 また、取締役Yとしては、監査役に報告を行い(会社法357条)、場合によっては、監査役から取締役Xに対して、違法行為の差止めを請求する仮処分を裁判所に申し立てる(会社法385条)等の対応も考えられます。
 仮に、取締役Xが、取締役会決議による承認を得ることなく、利益相反取引を行ってしまった場合であっても、会社Aからは、①直接取引の相手方(取締役X)に対しては、その取引が無効であることを常に主張することができ、②間接取引の相手方を含む第三者に対しても、その第三者が、(ⅰ)その取引が利益相反取引であること、及び(ⅱ)必要な承認決議を得ていないことを知っていたと会社Aが主張・立証することができた場合には、その取引が無効であることを主張することが可能です(最判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁、なお、①直接取引、②間接取引については、第1回をご参照ください)。

2 株主が行使できる主要な手段
 取締役Xによる利益相反取引の結果、会社Aに損害が発生した場合、株主Zとしては、会社Aが被った損害を回復するため、会社Aの監査役に対し、会社Aを代表して取締役Xに対して損害賠償を請求する訴訟を提起するよう請求することが考えられます(会社法847条1項2項)。
 そして、株主Zの請求にもかかわらず、会社Aの監査役が、会社Aを代表して取締役Xに対して損害賠償を請求する訴訟を提起しない場合には、株主Z自ら、会社Aを代表して取締役Xに対して損害賠償を請求する訴訟を提起することも可能です(株主代表訴訟、会社法847条3項)。

 また、可能かどうかは株主構成次第とはなってしまいますが、株主Zとしては、取締役Xが取締役として不適任であると考えた場合には、株主総会普通決議によって、取締役Xを解任することも考えられます(会社法339条1項)。
 なお、株主総会決議によって取締役Xを解任するためには、取締役Xの解任が株主総会の議題となる必要がありますが、株主Zが一定以上の株式を有する場合には、①株主総会が開催される予定であれば、その8週間前までに議題提案権(会社法303条)を行使して、取締役Xの解任を議題とすることや、②株主総会が開催される予定がなければ、代表取締役に対して、取締役Xの解任を議題とする株主総会の招集を請求し、それにもかかわらず株主総会の招集がなされない場合には、裁判所の許可を得て、株主Z自ら、株主総会を招集することも可能です(会社法297条)。


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