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2017.12.15

取締役による利益相反取引の制限(第2回)

 第2回は、利益相反取引の制限の内容についてです。前回ご紹介した利益相反取引について、法律上設けられている手続的な制限や、取締役が任務を怠った場合の会社に対する損害賠償責任に関する特別なルールについて、ご紹介します。

1 手続的な制限
 取締役が利益相反取引を行う場合には、その取引に関する重要な事実を開示した上で、取締役会が設置されている会社では取締役会決議による承認、取締役会が設置されていない会社では株主総会普通決議による承認が必要となります(会社法365条1項、356条1項2号3号)。
 このとき、利益相反取引を行う取締役は、特別利害関係人に該当しますので、取締役会決議の場合には議決に加わることができないので注意が必要です(法369条2項)。
 また、取締役会設置会社の場合には、利益相反取引を行った後も、その取締役は、遅滞なくその取引について重要な事実を取締役会に報告する必要があります(法365条2項)。
 一般的に、取締役がその任務を怠ったことによって、会社に対して損害を与えた場合には、会社に対して損害賠償責任を負いますが(会社法423条1項)、仮に、取締役が、上記必要な承認を得ることなく、利益相反取引を行い、会社に対して損害を与えた場合には、法令違反ということになりますので、通常、取締役はその任務を怠ったものと認められ、損害賠償責任を負うことになります。
 そのため、利益相反取引を行う取締役としては、上記必要な手続を経た上で、手続を経たことについて、取締役会議事録又は株主総会議事録において、記録として残しておく必要があります。

2 損害賠償責任に関する特別なルール
 利益相反取引については、類型的に、取締役の利益のために会社の利益が犠牲にされるおそれがあることから、上記必要な承認を得た場合についても、取締役の会社に対する損害賠償責任に関して、特別なルールが定められています。
 すなわち、通常、取締役には経営を行うにあたって裁量が存在することから、取締役が任務を怠ったと認められるためには、一定のハードルが存在すると解されています。
 しかし、取締役が利益相反取引によって、会社に対して損害を与えた場合には、利益相反取引を行った取締役や、会社においてその取引を行うことを決定した取締役は、任務を怠ったものと推定されます(会社法423条3項1号2号)。また、取締役会決議において、その利益相反取引を承認する決議に賛成した取締役も、任務を怠ったものと推定されます(会社法423条3項3号)。
 さらに、利益相反取引のうち直接取引の場合には、利益相反取引を行った取締役は、自らに責めに帰すべき事由がないことを理由として、損害賠償責任を免れることはできません(会社法428条)。
 このように、取締役が、会社に損害を与える利益相反取引を行った場合には、会社に対して損害賠償責任を負ってしまう可能性がありますので、利益相反取引を行う場合には、会社に損害を与えることがないよう、特に注意する必要があります。

 次回は、取締役が利益相反取引を行おうとしている、又は行った場合に、他の取締役や株主が行使できる主要な手段について、ご紹介します。


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