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2017.11.15

取締役による利益相反取引の制限(第1回)

 取締役は、会社のために忠実に職務を行う義務を負っています。そのため、取締役が会社の利害と相反する取引(利益相反取引)を行う場合には、取締役が自己の利益のために会社の利益を犠牲にすることがないよう、法律上、一定の手続的な制限が設けられています。利益相反取引については、取締役が任務を怠った場合の会社に対する損害賠償責任に関して、特別なルールが定められていることにも注意が必要です。
 他方、他の取締役や株主としては、取締役が利益相反取引を行おうとしている、又は行った場合、利益相反取引が制限されていることを踏まえた手段を行使することが可能です。
 そこで、今回から3回にわたり、取締役による利益相反取引の制限について、ご紹介します。

 第1回では、どのような取引が利益相反取引に該当するのかについて、ご紹介します。
 法律上、取締役による利益相反取引は、以下の2つの類型に分けられています。
  ①直接取引…取締役が、自ら、又は第三者の代理人や代表者として、会社との間で取引を行う場合(会社法356条1項2号)
  ②間接取引…会社が取締役の債務を保証するなど、会社が取締役以外の者との間で、会社と取締役の利益が相反する取引を行う場合(会社法356条1項3号)

 ①直接取引に該当するのは、例えば、(ⅰ)会社Aが、取締役Xに対して金銭を貸し付ける消費貸借契約を締結する場合、(ⅱ)会社Aの取締役Xが、別の会社Bを代表して、会社Aとの間で売買契約を締結する場合などです。
 ②間接取引に該当するのは、例えば、法律上例示されているような、(ⅲ)会社Aが、取締役Xの債務を保証する場合などです。(ⅳ)会社Aが、取締役Xが全株式を有する会社Bの債務を保証する場合も、間接取引に該当すると解されています。

 他方、一見、直接取引に該当する場合であっても、例えば、(ⅴ)取締役Xが、会社Aに対して、無利息・無担保で金銭を貸し付ける消費貸借契約を締結する場合など、類型的に会社にとって損害が生じる可能性がない取引については、利益相反取引には該当しないと解されています(大判大正9年2月20日民録26輯184頁)。

 (ⅵ)取締役Xが、会社Aの商品を一般の顧客と同様に定価で購入する場合なども、類型的に会社にとって損害が生じる可能性がない取引であるため、利益相反取引には該当しないと解されています。
 また、利益相反取引の制限は、会社の利益が犠牲にされることを防ぐために設けられているため、(ⅶ)株主全員が同意している取引の場合には、手続的な制限が適用されないと解されています(最判昭和49年9月26日民集28巻6号1306頁)。

 次回は、このような利益相反取引に対する制限の内容等について、ご紹介します。


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