2016.01.01
契約の当事者間において、長年にわたる取引関係に基づく信頼関係の存在などを理由として、契約書の作成を省いてしまうといったことがあります。しかしながら、日本企業間で契約を締結するに際しても、実態に合致した契約書を作成することは極めて重要です。問題が発生した場合や、担当者が交代して過去の事情が分からない場合など、契約書がないために合意の内容を証明できず、予防できたはずの紛争や損害が発生するといったことが起こり得るからです。
国際取引においては、異なる文化を有する企業間の取引であり、かつ、日本法だけではなく相手国の法律や条約が適用される可能性があるため、契約書を作成することの重要性は、更に高まります。
2 検討
1 当事者の合意に基づく権利義務関係
①から④をはじめとする当事者が有する権利義務について問題が発生した場合、日本企業A社としては、中国企業B社に対して、どのような責任を追及できるでしょうか。
この点、A社とB社の間に、合意が存在すれば、原則として、その合意に基づく権利義務が発生することとなります。例えば、①について、(a)A社とB社が、B社が中国において製品Xを発送した時点で危険が移転する旨合意していれば、B社が発送した後の輸送上の問題により不良品となってしまったことによる負担はA社が負うこととなり、反対に、(b)A社が日本の港において受け取る時点で危険が移転する旨合意していれば、A社が日本の港において受け取る時点において不良品であることの負担はB社が負うこととなります。また、A社とB社の間で、②について、B社が隠れた瑕疵について責任を負う期間について合意したり、③及び④について、A社が損害を被った場合に、B社に発生する責任について合意したりすることも可能です。また、⑤について、A社とB社の間で、紛争解決機関について合意することも可能です。
A社としては、契約書を作成して合意の内容を明確にしておくことによって、A社及びB社の権利義務を明確にし、①から④をはじめとする問題が発生した場合に、「このような場合には責任を負わない」といった紛争が発生することを予防すべきです。また、A社は、契約書において、紛争解決機関を明記し、意図していない裁判所において訴えを提起されるといったことも予防すべきでしょう。なお、A社が、中国の人民法院において訴えを提起され、敗訴したとしても、必ずしもA社に経済的な損失が生じるとは限りません。(中国における民事訴訟制度、紛争解決条項参照)
2 合意がない点についての権利義務関係
A社とB社が合意をしていない当事者が有する権利義務については、取引に適用される法規範に基づき発生することとなります。適用される法規範についても、原則として、A社とB社の間に合意が存在すれば、その合意に基づくことになります。例えば、(a)A社とB社が、日本の国内法が適用される旨合意していれば、日本の国内法が適用されることとなり、反対に、(b)中国の国内法が適用される旨合意していれば、中国の国内法が適用されることとなります。
一般論ですが、日本企業にとっては日本の国内法が適用されることが有利であり、中国企業にとっては中国の国内法が適用されることが有利といえます。A社としては、①から④をはじめとする当事者が有する権利義務について契約書に明記しておくだけではなく、日本の国内法が適用される旨、契約書に規定しておくことも検討すべきです。(契約における準拠法の合意参照)
なお、①から④をはじめとする当事者が有する権利義務について合意がなければ、日本と中国は、United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods(国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約))の加盟国ですので、A社とB社の物品売買契約については、当該条約が適用されることになります。また、⑤について合意がなければ、日本の裁判所に管轄が認められるか、中国の人民法院に管轄が認められるかどうかが、それぞれの国の法律に従って判断されることになります。
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