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2015.07.01

裁判例のご紹介

 中国における民事訴訟制度において、現状、日本の裁判所は、原則として中国の人民法院の判決を執行していないことをご紹介しました。2015年(平成27年)3月20日、東京地方裁判所は、日中間には民事相互保証がないため、日本において、中国の人民法院の判決を執行することができないと、改めて判断しました。

1 平成27年3月20日の裁判例について
 東京地方裁判所は、平成27年3月20日、中国の人民法院が損害賠償を命じた判決に基づき、日本国内で差し押さえなどの強制執行が認められるかどうかが争われた訴訟の判決で、原告の訴えを棄却しました。理由は、中国の人民法院は、財産法上の事件について日本と中国との間に互恵関係があるとは認めておらず、中国において日本の裁判所がした同種類の判決が承認及び執行される余地はないことから、日本と中国との間には相互の保証があるとは認められないためです。同判決によると、人民法院の判決は、中国籍で中国在住の女性(日本での訴訟の原告)が、書籍の記述で名誉を傷つけられたとして、著者と出版社に対し、80万人民元(約1500万円)の賠償などを求めていた事件のもので、著者と出版社は人民法院での裁判に出席せず、人民法院は2006年8月、請求どおりの賠償責任を認めていたとのことです。
 この判決は、中国における民事訴訟制度においてご紹介した大阪高等裁判所の平成15年4月9日判決を踏襲して、日本の裁判所は、原則として中国の人民法院の判決を執行しないことを、改めて確認したものと考えられます。

2 他国との比較
 外国の裁判所の判決の執行が、日本で認められた事例は多数存在します。例えば、①日本とニューヨーク州とは外国判決の承認につき相互保証があると判断し、ニューヨーク州上級裁判所の判決の執行を認めたもの(東京地裁平成26年1月8日判決、平25(ワ)15537号)、②大韓民国には日本と概ね同様の手続で外国判決を承認する手続があること等から、大韓民国ソウル中央地方法院の判決の執行を認めたもの(東京地裁平成25年12月13日判決、平25(ワ)18517号)などがあります。なお、外国の裁判所の判決の執行が日本で認められるための要件は、相互の保証だけではなく(民事訴訟法118条)、ニューヨーク州や韓国の裁判所の判決であれば、日本で必ず執行が認められるというわけではありませんので、ご注意ください。

3 日本企業の立場から見た、相互に判決の執行が認められないことによる良い点・悪い点
 日本企業の立場から見た、相互に判決の執行が認められないことによる良い点は、中国の裁判所において、訴えを提起され、敗訴したとしても、日本において強制執行されることはないという点です。中国企業の立場からすれば、中国の裁判所において、訴えを提起して、仮に勝ったとしても執行することができないのであれば、通常、そもそも訴え自体を提起しないという判断が合理的であるため、相互の保証がないことは、訴えの提起を抑制する方向に働く事情ともなります。
 しかし、その一方で、日本企業の立場からは、日本の裁判所において勝訴判決を得ても、中国にある相手方の財産に強制執行することができないため、強制的に紛争を解決する手段が失われる可能性すらあることになります。
 したがって、日本企業が中国の取引先と取引を行う際には、①日本企業が先に支払いを受けなければ商品を販売しないこととしたり、②契約書に適切な紛争解決条項を定めたりする必要性が、より高いということになります。

4 適切な紛争解決条項とは
 具体的な状況によりますが、被告地主義による仲裁条項又は訴訟条項が適切な場合が多くあります。この点、被告地主義による仲裁条項又は訴訟条項とは、例えば日本企業と中国企業が取引を行う際に、仲裁又は訴訟を提起する場合には、提起する者が、相手方の国の仲裁機関又は裁判所に提起しなければならないことを合意しておくものです。①被告地において訴訟を提起することにより、判決を相手国の裁判所において執行できないという問題は生じませんし、また、②例えば、日本企業が訴えられる場合には、相手国において仲裁又は訴訟を提起するためには、文書を翻訳したり、現地の弁護士へ依頼する必要があったり、自国で訴訟又は仲裁を提起するよりも手間がかかるため、仲裁又は訴訟の提起が抑制されるという利点もあるためです。


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