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2015.04.01

紛争解決条項

 前々回は中国における民事訴訟制度、前回は中国の民事仲裁制度をご紹介しました。どのような紛争解決方法を採用するかは、原則として、契約の当事者の合意で決めることができます。そこで今回は、契約書において、紛争解決方法をどのように定めるかを検討します。

1 紛争解決条項
 国際取引契約には、通常、紛争解決方法の定め(紛争解決条項と呼びます。)を置きます。紛争解決条項には、主として、①紛争を裁判所で解決することを定めるものと、②紛争を仲裁で解決することを定めるものがあります。 ①紛争を裁判所で解決することを定める条項には、以下のようなものがあります。
【条項例】
 本契約からまたは本契約に関連して、甲乙間に生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、東京地方裁判所を、専属的管轄合意裁判所として解決されるものとする。
 また、②紛争を仲裁で解決することを定める条項には、以下のようなものがあります。
【条項例】
 本契約からまたは本契約に関連して、甲乙間に生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁においては、日本語を使用言語とし、仲裁人の数は1人とする。

2 裁判所または仲裁機関の選択
 裁判所での紛争解決または仲裁機関での紛争解決のいずれを選択するかは、様々な要素を考慮して判断する必要があります。以下に、考慮すべき要素の例を挙げます。
(1)執行力の有無
 日本企業と中国企業が契約を締結する場合、日本企業の立場からは、一見、日本の裁判所で紛争を解決することを定めておけば、有利と思えます。 しかしながら、前々回にご紹介したとおり、日本企業と中国企業が、日本の裁判所で紛争を解決するとの契約を締結し、日本企業が、日本の裁判所で勝訴したとしても、その判決は、中国において執行することができないため、勝訴判決は、「絵に描いた餅」になってしまいます。 これに対して、日本及び中国は、外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約に加盟しているため、日本での仲裁判断は同条約の加盟国である中国において承認・執行することが可能となります。 したがって、日本企業の立場からは、日本において紛争解決を行う場合、契約書には、日本の裁判所ではなく、日本の仲裁機関において、紛争解決をすることを定める必要があります。
(2)公開・非公開 
 民事裁判は、通常、手続が公開されます。公開され、批判に耐えうるものであるからこそ、判決の妥当性を確保することができるというメリットがあります。 これに対して、仲裁手続は、通常、非公開です。紛争や仲裁判断の内容を第三者に知られないというメリットがあります。
(3)上訴の可否 
 日本の裁判手続は三審制(控訴、上告が認められる)を採用しており、中国の裁判手続は二審制(上訴が認められる)を採用しています。第一審判決(日本においては第二審判決も)が終局的なものではなく、判決が不当なものであれば、上訴審において是正する可能性があるというメリットがある反面、審理が長期にわたる可能性があるというデメリットがあります。 これに対して、仲裁手続においては、通常、上訴をすることができず、一度目の仲裁判断が終局的なものとなります。紛争の解決を迅速に行うことができるというメリットがある反面、不当な判断を是正する機会がないというデメリットがあります。

3 被告地主義の仲裁
 状況によって適切な紛争解決条項を規定する必要がありますが、いわゆる被告地主義の仲裁条項をお勧めすることが多くあります。 被告地主義の仲裁を定める条項には、以下のようなものがあります(日本企業及び中国企業の紛争解決条項の例)。
【条項例】
 本契約からまたは本契約に関連して、甲乙間に生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、乙(注:中国企業)が申立てる場合には、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京において仲裁により最終的に解決され、甲(注:日本企業)が仲裁を求める場合には、中国国際経済貿易仲裁委員会に申立てられ、仲裁申立時の当該委員会の現行の有効な仲裁規則によって、北京市において仲裁を行わなければならない。仲裁の裁決は終局的なものであり、当事者双方を拘束する。


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