相続財産の範囲‐労災保険に基づく遺族給付が含まれるか否か2010/1/22

Aが死亡し、Aの相続人は、Aの妻YおよびAの親Xの合計二名です。Aは、業務上の事由により死亡したため、妻Yは、労災保険に基づいて、遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金および葬祭費を受け取りました。親Xは、妻Yに対して、妻Yが受け取った労災保険に基づく給付金を、相続割合に従って支払うよう要求できますか?
親Xは、妻Yに対して、遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金および葬祭費を、相続割合に従って支払うよう要求することはできないと考えます。
理由親Xおよび妻Yは、いずれもAの相続人ですから(民法900条)、Aの相続財産については、相続分に応じて相続する権利を有しています(民法899条)。従って、労災保険に基づいて支払われた、遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金および葬祭費が「相続財産」と言えるのであれば、親Xは、妻Yに対して、その一部を相続割合に従って支払うよう要求できることになります。

「相続財産」とは、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」をいい(民法896条)、遺族の生活保障を目的とする社会保障法上の遺族給付は含まれず、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付および葬祭費なども「その法的性格により相続財産性を判断することになるが、多くの場合、遺族の生活保障を目的とするかこれに準ずるものとして相続財産性は否定される」とされています(榎戸道也「死亡退職金・遺族給付」判例タイムズNo.1100、337頁)。

この点、労災保険に基づく遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金および葬祭費は、死亡した被相続人に対して支払われるべきものではなく、遺族の生活保障を目的とするものと考えられます。従って、これらの給付金は、相続財産には含まれないと考えます。なお、同様の趣旨から、これらの給付金は、特別受益(民法903条)にも含まれないと考えます。

以上より、親Xは、妻Yに対して、遺族補償一時金、遺族特別支給金、遺族特別一時金および葬祭費を、相続割合に従って支払うよう要求することはできないと考えます。