毒入餃子(その2)‐事前の対策2009/12/18

2008年1月から2月にかけて、中国から輸入したギョーザ(餃子)で中毒が発生したことが報道されました。かかる問題に対して、日本企業はどのような対策を取るべきでしょうか。前回は発生しうる法的責任を検討しましたが、今回は事前の対策について検討します。

第2回 取りうる事前の対策

結論

事前の対策としては、(1)中国における食品加工工場について、継続的に製品の安全性を検査する制度を導入する、(2)問題が発生した場合のマニュアルを作成する、(3)食品加工工場と明確かつ適切な契約を締結することが考えられます。

理由
  • (1)中国における食品加工工場の製品の安全性を継続的に検査する制度を導入すること

    食品を輸入する日本企業において、信頼することができる工場のみから、食品を輸入すべきです。特に自社の名称や商標を食品に付する場合には、より慎重になるべきです。国際標準化機構(ISO)といった国際機関から認定を受けている工場もあり、また、日中合弁会社や日本企業が100パーセント出資している独資会社が運営している工場もあります。そのような認定や親会社である日本企業を信頼することも一つの方法ですし、費用対効果の問題もあります。

    しかし、製造物責任法で無過失責任を負う可能性があり、また、一たび問題が生じると当該企業の評判に大きな傷がつく可能性があります。また、程度問題ですが、中国の工場において、常識であると思われる対策が取られていないこともあります。さらに、食品加工工場に外部から比較的容易に毒物を持ち込むことが可能といったこともあり得ます。

    そこで、自ら検査することができる規模と能力を有しているのであれば、中国の食品加工工場との間で、一定の品質を単に交渉及び契約書上で約束するだけではなく、実際にその品質を達成・維持することができるだけの設備を備えているか、実際の運用が適切になされているかを検査すべきです。

    問題点があるものの、改善の余地がある工場に対しては、改善の指導をし、また、ISO規格やHACCP方式を導入していない工場に対しては、導入を契約の条件とするといったことも考えられます。また、契約締結時に一度検査するだけではなく、継続的・定期的に検査すべきです。かかる検査に耐えた食品工場のみから食品を輸入すれば、相当程度、毒物混入といった事態を防ぐことが可能と考えます。

  • (2)健康被害の拡大防止のためのマニュアルを作成すること

    どのような事前の対策をしていたとしても、不測の事態が発生することはあり得ます。例えば、工場の従業員が工場の責任者に対して反感を持ち、嫌がらせのために故意に毒物を混入するといった可能性は常にあります。そこで、仮に問題が発生してしまった場合のために、その問題が拡大することを防ぎ、被害を最小限に食い止めるためのマニュアルを作成すべきです。

    • ア 現場担当者から責任者への報告及び現場担当者での対応についてのマニュアル

      従業員が食品に問題が生じている旨の情報を受け取った場合に、誰に対して報告するのかを予め決定しておくべきです。また、食品の安全性に関する全ての情報が必ず特定の責任者の元に届くようあらかじめ報告マニュアルを定めておくべきです。たとえば、異臭がする、味が通常と異なる、腹痛を起こしたといった情報が、素早く特定の責任者に届くようにし、当該問題が重大な問題であるのか、そうでないのかを現場担当者ではなく、当該責任者が判断できる制度を整えるべきです。現場担当者が警察へ通報すべき旨もマニュアルに記載すべきと考えます。

      また、特定の食品に問題が生じた場合、同一商品のみの発売を停止するのか、それとも同一工場で製造された異なる商品まで販売を停止するのか、さらには同一会社により製造された異なる製品全ての販売を停止するのかについて、あらかじめマニュアルを作成しておくべきです。また、責任者が判断するまでの暫定の措置として、現場担当者の判断で一時的に商品の撤去などを行うことができるようマニュアルに定め、その基準なども明確にしておくべきと考えます。

    • イ 発表及び製品回収についてのマニュアル

      問題が発生した食品を売り場から撤去するだけではなく、すでに購入し、自宅で保有している消費者が当該食品を摂取しないよう、問題が発生した食品の発売期間、販売した店舗など発表すべき情報を、マニュアルに従って、マスコミ、店頭、ウェブページ等を通じて発表し製品を回収することができるよう、事前にマニュアルを作成すべきです。発表は早いほど効果的で、被害が拡大しないことにより負担しなければならない損害賠償責任の総額の拡大を防止することができます。また、状況を発表し、被害の拡大を防止することに向けて努力することで、被害の拡大に関する不法行為責任を回避することも可能です。

      また、速やかに発表し回収を図ることによって、製品の安全性に対する自社の姿勢を示すべきであり、その発表のための文言なども事前に弁護士などと準備すべきです。

  • (3)食品加工工場と明確かつ適切な契約を締結すること

    食品を輸入する場合、中国の食品加工工場との間で、明確な責任を定めた契約を締結すべきです。

    当該契約書には、定期的な検査、抜き打ち検査、問題発生後の検査などについても明記すべきと考えます。また、通常、外部から食品加工工場の過失を証明することが困難であることから、契約書において、当該食品が原因で消費者に健康被害が生じた場合には、食品加工工場が自らに責任がないことを証明しなければ、輸入者に対して損害賠償責任を負う旨を規定すべきです。

    また、中国の食品加工工場の不適切な行為をできるだけ抑止するため、できれば損害賠償金額を容易に算出することができる損害賠償額の予定条項を契約書に規定すべきです。

    さらに、先例からすると、日本の裁判所において勝訴判決を得ることができても、中国において当該判決を執行することができる可能性は低いですが、仲裁であれば、日本及び中国は仲裁に関するニューヨーク条約に加盟していますので、相互に執行が可能です。

    また、中国の裁判所は地方保護主義的傾向が強いと一般的に言われています。そこで、紛争解決条項には、訴訟ではなく仲裁により解決する旨を規定すべきで、さらに、できれば東京において社団法人日本商事仲裁協会の仲裁により紛争を解決する旨を規定すべきです。

    なお、契約書に東京での仲裁を規定し、仲裁が東京で行われた場合であっても、執行については、日本国内に当該中国食品加工工場の財産がない限り、中国の裁判所に申請して行うことになります。そこで、仮に、日本企業が出資する合弁会社や独資会社が食品加工工場を運営しているのであれば、親子会社を含めて三者間で契約を締結したり、子会社の債務について親会社である日本企業に連帯保証させたりする方法で、日本国内のみで損害賠償請求を実現することも可能です。